会計のルールが見落とすもの
あなたが A 社株を 5% 保有しています。A 社の今期純利益は 1,000 億円。あなたの「取り分」は理論上 50 億円です。
しかし会計上、あなたの収益として認識されるのは — 配当として受け取った分だけ。A 社が配当性向 20% なら、配当は 200 億円。あなたへの配当は 10 億円。
残りの 40 億円(5% × 800億円の留保利益)は、A 社内部に再投資される。この 40 億円は誰のもの? — 株主のものです。なぜなら、留保された利益は、将来の配当・自社株買い・事業拡大を通じて、株主価値に還元されるから。
ルックスルー利益の定義
バークシャーの株主は、会計上の利益ではなく、ルックスルー利益にこそ注目すべきだ。
計算式は明快:
Look-Through Earnings = Σ(保有比率 × 投資先純利益)
計算例 — バフェットの過去のポートフォリオ
1988年時点のバークシャーの主要保有銘柄で計算してみます(実際の数字に近い値):
| 銘柄 | 保有比率 | 当期純利益 | 取り分 |
|---|---|---|---|
| キャピタル・シティーズ/ABC | 17% | $300M | $51M |
| ガイコ | 44% | $110M | $48M |
| ワシントン・ポスト | 13% | $95M | $12M |
| コカ・コーラ | 1.3% | $1,045M | $14M |
| 合計(ルックスルー利益) | — | — | $125M |
会計上は配当のみが認識されるため、表の合計より少ない金額しか「利益」として計上されません。本当の収益力は、ルックスルー利益で見るべきとバフェットは主張します。
個人投資家への応用
あなたのポートフォリオで計算してみましょう:
- 保有銘柄ごとに、保有株数を確認
- 各企業の発行済株式数を有報で確認 → 保有比率を計算
- 各企業の当期純利益を有報から取得
- 保有比率 × 純利益 を全銘柄で合計
例:あなたのポートフォリオ
- トヨタ(7203)100株 / 発行済株式 16億株 → 保有比率 0.0000063%
- トヨタ純利益 4兆円 → 取り分 25,000円
- キーエンス(6861)10株 / 発行済株式 2.4億株 → 保有比率 0.0000042%
- キーエンス純利益 3,000億円 → 取り分 1,250円
- あなたのルックスルー利益 ≒ 26,250円
これがあなたが保有する企業群の「真の年間収益力」です。配当として受け取る分だけでなく、内部留保で再投資される分も含めた数字。
留保利益の検証 — バフェットの $1 ルール
バフェットは「留保利益検証(One-Dollar Premise)」も提唱しています:
過去の累積留保利益が、市場価値の増加分(株価上昇分)と少なくとも同等の価値を生み出しているか。
計算方法:
- 過去 N 年の累積留保利益(純利益 − 配当の累積)
- 同期間の時価総額の増加分
- 後者 ÷ 前者 が 1 以上なら、経営陣は1ドルの留保利益で1ドル以上の価値を生んでいる
バフェットはバークシャーで「1.4倍」の数字を達成していると報告しています。留保利益を効果的に再投資できる経営陣かどうかが、長期投資の判断軸です。
まとめ — 配当の罠を超える
「高配当株が良い」と単純に考える投資家は多いですが、配当性向が低い ≠ 収益力が低い。優れた経営陣であれば、留保利益を再投資して株主価値を増大させます。配当の有無に関わらず、ルックスルー利益で真の収益力を見ましょう。
これがバフェットが「私の好む保有期間は永遠だ」と言う根拠の一つ。優良企業を長期保有すれば、留保利益の複利が効いて、本質的価値が成長していくのです。
※ 本記事は投資教育・情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。