なぜ「純利益」ではダメか
会計上の純利益(Net Income)は、企業の本当の儲けを正確に表しません。理由は3つ:
- 減価償却費は現金支出を伴わない:費用計上されているが、現金は出ていかない
- 維持に必要な設備投資(CapEx)は引かれていない:純利益には反映されない
- 運転資本の増減は計上されない:売上拡大に伴う在庫・売掛金の増加は現金を消費
そこでバフェットは1986年の株主への手紙で、新しい指標を定義しました。
オーナー収益の計算式
オーナー収益とは、(a) 純利益 + (b) 減価償却・償却・繰延税金など現金支出を伴わない費用 - (c) 売上を維持するために必要な平均的な年間設備投資額(運転資本の純増を含む)である。
数式で書くと:
Owner Earnings = 純利益 + 減価償却 + 償却 + 繰延税金 − 維持CapEx − 運転資本増加
各項目の意味
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| + 純利益 | 出発点 |
| + 減価償却費 | 現金が出ていかない費用を戻す |
| + 償却費 | のれん・無形固定資産の償却を戻す |
| + 繰延税金 | 現金支出を伴わない税金影響 |
| − 維持CapEx | 既存事業を維持するための設備投資 |
| − 運転資本増加 | 売上拡大に伴う在庫・売掛増を差し引く |
最重要の難所 — 「維持CapEx」の見極め
計算式で最も難しいのが 維持CapEx です。減価償却費 ≠ 維持CapEx。注意点:
- インフレ下では維持CapEx > 減価償却費:設備の更新コストがインフレで上昇
- 成長CapEx と分離する必要:新店舗・新工場は維持CapExに含めない
- 過去5-10年平均で見極める:「売上維持に必要な投資水準」を抽出
実務では、有報の「設備の状況」セクションを過去5-10年読んで、「既存事業の維持・更新」と「新規・拡張」を分離します。これは定量+定性の作業。
計算例 — 仮想企業 A 社
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 純利益 | 3,000億円 |
| + 減価償却費 | +800億円 |
| + のれん償却 | +50億円 |
| + 繰延税金 | +20億円 |
| − 維持CapEx | −600億円 |
| − 運転資本増加 | −100億円 |
| = オーナー収益 | 3,170億円 |
純利益 3,000億円に対して、オーナー収益 3,170億円。会計上の純利益が、株主に帰属する本当のキャッシュとほぼ一致しているケース。
逆に維持CapExが減価償却を大きく上回る業界(鉄鋼・化学など)では、純利益 1,000億円でもオーナー収益 200億円、ということもあります。
本質的価値への応用 — DCF
バフェット流の本質的価値(Intrinsic Value):
本質的価値 = Σ(将来のオーナー収益 ÷ (1 + 割引率)^t)
割引率はリスクフリーレート(10年国債利回り)を用います。日本では現在約1.5%。
例:A社のオーナー収益が今後10年間 3,170億円継続、その後永久に維持と仮定すると:
- 10年間の現在価値合計 ≈ 2.9兆円
- 11年目以降の永久価値(割引率1.5%)≈ 21兆円
- 本質的価値 ≈ 24兆円
もし時価総額が24兆円以下で、かつ安全域 25-33%を確保した16-18兆円程度で買えるなら、グレアム流のバリュー投資基準を満たします。
まとめ — 純利益の罠を超える
多くの投資家は PER(株価÷純利益)でバリュエーションを判断しますが、純利益は会計の歪みを含んでいます。バフェットがオーナー収益を提唱したのは、この歪みを排除して「株主が本当に手にする現金」を見るため。
個別銘柄を分析するときは、有報のキャッシュフロー計算書を読み、減価償却・CapEx・運転資本を独自に拾って、オーナー収益を計算してみましょう。純利益とのギャップが大きい企業は、見え方より実態が良い/悪い — それが投資の起点になります。
※ 本記事は投資教育・情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。